腹黒エリートが甘くてズルいんです
そっ……か。

何も、転職だけが答えじゃないのかも?
今までの知識や経験を活かしながら、昔抱いていた夢に少し重なるような方向になれば、それってすごく幸せなことなのかも。


営業職が大変なのは知っている。
お得意先を回るだけが仕事じゃないし、ノルマもある。
はーいやりまーす、どうぞどうぞ、なんて甘いことではないのも分かっているつもり。

でも、幸いあたしは新入社員じゃない。社内でのつながりもあるし、困った時に対処する力はまさかそれなりに、ついているはず。


「そっか……」

ぽつり、と呟いてみる。

退職するかしないか、みたいな0と100の話じゃなくて、折衷案じゃ無いけれど、そういう方向もありなのかもしれない。


「な? 俺天才だろ?」


あたしの考え込む様子を見て、満足そうに先輩が言う。

本当ですね、とは言いたくないけれど、確かに納得する部分もある。


「……とりあえず、一旦トイレ行ってきます」


「おー行ってこい行ってこい、出すもの出してじっくり考えてこい!」

先輩のセクハラとも取れそうな陽気な声に送られながらトイレへと向かう。
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