腹黒エリートが甘くてズルいんです
明らかに小声で『やべぇ』と呟いている。

おかしい。


「先輩、何を隠しているんですか?」


「……な、なにが?」


まさかのすっとぼけ。いや、通用しませんよそんなもの。

横で見ていた由依も、さすがに
「何だか分かんないけど取り合えず先輩、それで誤魔化せると思っているならあたし達もナメられたもんだわ……吐いちゃって楽になったらどうですか?」


由依に、すがり付くようにしながら、先輩が半泣きの声を出す。

「一緒に逃げよう、俺はこのままじゃ組織に消される」


その下手くそな芝居に思わず笑いそうにもなるけれど、あたしは正直それどころじゃない。嫌な予感、とか虫の知らせ、とか、そんな言葉が頭をよぎる。


「もしかして……酒井君と知り合いなんですか?」


あたしの中でほぼ確定している疑惑を口にしてみる。

分かりやすく肩をびくんとさせると、先輩は視線を外しながら言う。


「俺の口からは何とも……」



いや、それ、ほぼ答えなんですけど。
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