腹黒エリートが甘くてズルいんです
「遅れて行ったのも、わざと。でも、イデミッツーからお前が先に帰るかもしれない! って慌てたメッセージ入ってきたから、ちょっと焦った。玄関のとこで無事会えたから、あいつにも電話して、伝えたんだ」


……確かに。
居酒屋の出口でバッタリ再会した後、すぐにどこかに電話していた。


あたしを騙すために、わざわざ偽物の指輪を買って既婚者のふりをして。
偶然を装って飲み会で再会をして。
既婚者ならではのアドバイスをしてやるなんていって。
結婚に焦るあたしの姿を見て、心の中で笑っていた、と。


怒りも悲しみも通り越して、感情がフラットになる。

だからなのか、『酷い! 騙したのね! 』と憤る気にもならない。


『お前を35歳で幸せにしてやる』と言ってくれたときの酒井君の姿がよみがえる。
疑いもしなかった。
心の中でバカにされていたなんて、微塵も感じられなかった。
何なら、きゅんとしてしまった。


あたしは、バカだ。

中学生の頃から、ずっとずっとバカだ。
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