腹黒エリートが甘くてズルいんです
確かにそれぞれ片手ずつ空いてはいるけれど、片手を繋いでもう片方でじゃんけんって……なんか変なの。


「ほれ」


言いながら、酒井くんが、あたしの空いている手を取る。

結局両手を繋いで向かい合う形のあたし達。
これ、どう考えてもこれからじゃんけんする人の体勢じゃないけど?

駅前の割と人通りのある広間で何をやっているんだ、という。


「あのさ、一つじゃなくてもよくない?」


酒井くんがふざけていない、優しい口調で言う。


「あ、両方の食べたいものをハシゴするってこと? でもさ、カレーとラーメンとかだったら結構ヘビーだね、それ」


あたしの言葉を聞いて、酒井くんが、呆れたように笑う。


「いや、そうじゃなくて……これからのこと」


これからのこと??
意味が分からなくて、酒井くんのきれいな顔を真正面から見つめる。


やっぱりあたしはこの顔を見て、『知っている』と思う。


「35歳で幸せになる、っていうやつ。道は一つじゃないだろ?」


酒井くんの言わんとすることが分からなくて、続きを待つ。
< 212 / 227 >

この作品をシェア

pagetop