腹黒エリートが甘くてズルいんです
「4月から新しい環境で、仕事内容も変わって……私生活も変えちゃえばいいじゃん?」


「いや、引っ越しまでする体力残ってないし」


あたしの言葉を聞いて、酒井くんが、また笑う。
でも、切実だよ。
運動していないアラサーをなめるな、って話ですよ。引っ越しなんて、荷造り中に息が切れそう。
怪訝な顔をするあたしを、まっすぐ見つめてくる酒井くん。


「回りくどいことして、また失敗したら嫌だからちゃんと言う。仲田、俺と結婚してください」


「へ……」


突然のことに面くらい、言葉を失う。


「でも、お前は自分で頑張る道も見つけた訳だから。両方とも、叶えればいいじゃん?」

……そうか。


さぁあ、と秋の風が頬を撫でる。

あたしは、今この、目の前にいる、大好きで、大好きだった人と、幸せになれるんだ。


息を吸い込み、しっかりと声を出す。


「……よろしくお願いします」


酒井くんが、あたしの手を強く握る。負けじと握り返すけれど、彼の手はあたしのよりもずっと、大きい。
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