腹黒エリートが甘くてズルいんです
「大変だよねー、地元に帰ると結婚しろコールなんでしょ?」


あたしと同じ34歳、独身のくせに、まるっきりの他人事口調でのんびりと訊ねてくる。


「今回は実家に寄ってないからいつもの無言の圧力攻撃は免れたけど……」


あたしの言葉に由依が愉快そうに笑う。


「あー、あの、リビングのさりげない位置にお見合い用の釣書が置いてあるっていうやつね!とんだ圧力だよね」


くすくすと耳に響く笑い声はとても心地好く、由依が嫌味でも何でもなく、本当に面白がっているのが分かる。


「まあねー、でも、あたしのご招待テーブル、全員既婚者だった」


「へっ?!」


さすがの由依もそれには驚いたようで、綺麗に睫毛に縁取られた大きな目をしばたかせ、髪の毛をくるくるとする手を止めた。


「でしょー、驚くでしょ、びっくりだよね」


あたしはその反応に同士を得たような力強い気持ちになって鏡越しではなく、隣の由依を直接見上げる。
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