腹黒エリートが甘くてズルいんです


「莉緒っち、これ、こばと幼稚園の分! よろしくね」

あたしは、デスクにぱさりと置かれた紙を受け取りながら急いで振り返って聞く。

「こばとって、どっちのですか? 高台の? それとも、セレブな方?」


あたしの言葉を受けて、出光(いでみつ)先輩がくるっと踵を返し、駆け寄ってくる。

「わりーわりー、またやっちまうとこだった。にっくき、こばとトラップ! セレブセレブ、今回のはセレブの方で」


出光先輩の、『営業で鍛えた』と言い張る、きっと地声の大きな声がフロアに響き渡り、笑い声がそこかしこで起きる。


あたしは、目指す道からは外れたけれど、実は児童福祉と全く関係のない所で働いているわけではない。

事務用品やコピー機を取り扱う会社で、その取り引き先には多数の保育園、幼稚園、託児所等が肩を並べている。

と、言ってもあたしは事務なので、それこそ目の前で上司とげらげら笑っている出光先輩のように営業で行った保育園で給食頂いてきましたー、とかの、直接的な触れ合いはあまりないのだけど。
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