腹黒エリートが甘くてズルいんです
木製の番号札を金具に差し込み、靴箱から見慣れたモカブラウンの色気のないパンプスを取り出す。

いくら2日前に急に出光先輩に
『相手の女子に安心感を与える、お前みたいなフツーの女子が一番だ! 万が一、俺が会話に詰まったら例の新郎新婦の話を面白おかしくしてくれ! 飲み代は奢ってやる!』
と頼まれたからとは言え、その気になればきちんとかわいい格好も用意できたはずだけれど、うっかりバリバリ普通の通勤ルックで来てしまったんだ。


まあね。
今日の感じだと、張り切ってしまったら陰で『見た? あのババアの気合い!』とか言われそうだから、むしろ、色気もそっけもない通勤服で丁度良かったかもしれない。


ウィイ……ン


あたしが立つより一足早く、目の前で自動ドアが開く。


背の高い男の人が立っていて、一歩下がりながらなんとなく避ける。


「……?」


道を空けたつもりなのに、男の人が動かない。


チラリ、と見上げると、スーツ姿のきちんとした人。もうすぐ7月という蒸し暑い夜のせいか、広めに開けたシャツの胸元がセクシー、なんて。
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