腹黒エリートが甘くてズルいんです
通りすがりの男の人がセクシーかどうかなんてどうでもいいのに、あたしってば欲求不満なんだろうか。


あまりにもその場から動かないその人を不審に思い、思わず顔を見る。


「……あ、れ?」


舌の上で呟く。多分、外には漏れていないくらいの音量。


一瞬、ここがどこだか分からなくなった。足元が、視界が、揺れた気がする。


「……仲田?」


あたしをまっすぐ見つめたまま、そのサラリーマン風の人が呼び掛ける。


うんうん、と頷くのが精一杯。
疑問形だったけれど、この人は今あたしの名前を呼んだ。と、いうことは、あたしが今思っていることは正しいのかもしれない。


「……もしかして、酒井君?」


恐る恐る口にしてみる。


あたしの声を聞くと同時に歩みより、ハグでもされるんじゃないかってくらいの勢いでグイグイと手を繋いで上下に振られる。


「やっぱりーーーーー!! 仲田ーーーーーー!! 何やってんだよ、マジで久し振り!あれ、もう帰るとこ?」
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