腹黒エリートが甘くてズルいんです
「フツー、この状態でぼんやりする? 久々の旧友との感動の再会だっつーのに」


「いや、あの、手……」


ああ。ついうっかり言ってしまった。どうしてあたしはこうなんだろう。


「は? 手? 何が?」


不思議そうに言いながら酒井君が自分の右手をひらひらする。
いや、そっちじゃなくて……と言おうとした時、繋がれていたあたしの右手が自由になった。

見ると隣で酒井君があたしと繋いでいた左手をひらひらさせ、
「あ、ごめんごめん、連行しっぱなしだったな」

ははは……と笑いながらその姿を見た瞬間、パキ、とあたし達のいる空間が割れた気がした。


指輪……。

酒井君の、男の人にしては長くて綺麗な指。
その左手の薬指にはしっかりと指輪がはめられていた。


独身かどうか、およそ関係の無さそうな人でも、無意識に左手の薬指を確認する癖がついたのはいつからだったか。

今回に限って、そのチェックを忘れていた。中学の頃を思い出したから、既婚者だなんてイメージが無かったからかもしれない。
< 50 / 227 >

この作品をシェア

pagetop