腹黒エリートが甘くてズルいんです
「あー? あ、これなー。この指輪センスねーだろー、まじで」


不満げに斜めに掲げたそれは、シンプルなデザイン。街灯に照らされてキラキラと光っていて。

あたしには、とても素敵に見えた。

手の届かない証のような。
違う世界の印のような。



「あー、ごめん、あたし、明日早いんだった」


不意に嘘が口をつく。
別に早く起きる予定はない。特に何かあるわけでもない。

でも、何だかこのまんま飲みになんて行けない気がした。


「あ、まじで。そっかーー」

さすが、昔から皆の人気者、酒井君。そこでぐいぐい『いいじゃん』なんて無理を通そうとしないところがまた紳士的で、素敵で。

……何故か泣きたくなった。


「んじゃ、駅まで送るよ。改めて飲もうぜ。こんなところで昔の友達に会えるなんて嬉しすぎる」


確かに、ここはあたし達の地元からは遠い。
中学の時の友達に再会したらある程度嬉しい。

でも、あたしは、酒井君だったから、本当に夢みたいだと思ったんだ。

浮かれていた自分が恥ずかしい。
天国から地獄に突き落とされたみたい。
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