腹黒エリートが甘くてズルいんです
「連絡先、教えて。この前、仕事で松井にも会ったんだよ、今度皆で飲めたら楽しくねぇ?」


同じ塾だった男子の名前を出しながら、スマホをいじる酒井君。


「えーとー、登録……あ。お前、今、何さん?」


あ。
やめてもらえる? その、結婚してるのが前提みたいな聞きっぷり……と憤る反面、誰かに選ばれているようにも見えたのかな? という謎の安心感。
まぁ、年齢的にも結婚している方が自然だから言われたんだろうけど。


「……仲田さん」


ぼそ、と呟くあたしの声が拾えなかったのか、酒井君が顔を近づける。

「ん?」


「仲田莉緒、34歳独身です」


おふざけテイストで言ってみる。
何このプライドの高さ。


「……あ、まじで?」


思ったほどのリアクションもなく、ほっとする。そうだよね、異常じゃないよね、あたし。


「んーじゃ、仲田、莉緒……っと」

素早く指を動かしながら酒井君が言う。


「あれか。色々辛いことあったんか。おじさんが聞いてやる。近々飲もう」


……ん?

「いや、出戻りとかじゃないけど」
< 53 / 227 >

この作品をシェア

pagetop