腹黒エリートが甘くてズルいんです
「て、言うかさぁ……」


一歩下がり、あたしの全身を見ながら酒井君が言う。


「なによ……」


嫌な予感がしつつ、何となく両腕で自分の身体を包む。
そりゃあ、中学の頃よりは太ったし、シワとかシミもあるし、運動もろくにしてないからたるんでるし……あんな溌剌としていた頃と比べないでほしい。


「お前、合コンだったんだろ? その格好で参戦したわけ?」


ぐ、と息を飲む。合コンだと思われたのも嫌だし、服装については平謝り以外なす術が無いし。


「合コンじゃないもん、会社同士の親睦会って言うか……別に気合い入れる場でもないし、そんな歳でもないじゃん」


俯くと、色気のないパンプスの爪先が見えて、哀しくなる。


「そんな色気の無い格好じゃ、盛り上がるものも盛り上がらないだろ。気合い云々の前にさー」


うう。
確かに、今日のあたしはオフホワイトの七分袖のコットンシャツに、ブラウンベージュのサブリナパンツという、色気のイの字もない、完全に着心地と動きやすさ重視の通勤スタイルだけど。
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