腹黒エリートが甘くてズルいんです
「だって……あたし達、34歳だよ?同じ歳や年下の子がさ、ちゃんと結婚して、子供を育てたり色々してるわけよ。そんな中、何て言うか……」


うまく言えない。
言いたいことは色々あるけれど、言葉にならない。

ぐ、と言葉に詰まったあたしを、憐れむような目で酒井君が見つめてくる。そんな目で見られたら、自分が惨め過ぎて泣いてしまいそう。


「……あのさぁ」


ため息混じりにも取れるような言い方をしながら、酒井くんがあたしの肩をぽんぽんと叩く。


「……ちょっ」


ババアですけど。34歳のババアですけど……いや、違うな。ババアだからか?
たかが肩、されど肩。あたしにとっては立派なボディータッチの類いにつき、どうしたらいいか分からないんですけど。

ピクリとも動くことが出来ず、身体を強張らせたまま、酒井君を見る。


やっぱり、すごく綺麗な顔。そりゃ、中学を卒業して約20年経っちゃうわけだから、勿論あの頃のまま!って訳じゃないけど、それでもやっぱり力強い目だったり、すっと通った鼻筋だったり、形のいい唇もそのまんま。
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