腹黒エリートが甘くてズルいんです
『ぐわあああ』とかなんとか、変な声を出しながら、酒井君がラフにセットされていた髪の毛をかきむしるような仕草をする。
ひとしきり、そんなことをした後、あたしを睨むように見てくる。


「……お前、結婚したい?」


なんですかそれ。いつもなら、そんな意味合いの事を聞かれても、大抵ふんわりとしているからこちらもそれなりに上手く逃げる手段を使うんだけど、そんなド直球で来られてしまうと……

「うん」


素直に頷くしかなかった。
だって、そりゃあ、結婚したいもん。


そんなあたしを見て、酒井君があの頃のままのくしゃくしゃの笑顔になる。
あぁ、知ってる。
そんな風に無邪気に笑うあなたを見て、胸がぎゅうーっと締め付けられていた、20年前のあたし。


「まだ素直さ残ってんじゃん。偉い偉い。……で、いつまでにしたいわけ?」


偉いって何よ、と思いつつ、こうなったらとことん素で答えてやる。


「そりゃ、早ければ早いほど……あ。35歳になるまで、とか?」
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