腹黒エリートが甘くてズルいんです

不意に酒井君の顔がすぐそばに来て、思わず目をつぶり、息を飲む。


「……っ！…………？」


そのまんま、ぶつかる訳でもなく、痛みも何も無いので恐る恐る目を開けると、すぐそこには固まった酒井君のイケメンフェイス。


「……いやいや、奇襲攻撃とか止めて。びびるからマジで。手、を、は、な、せ！」


固まった、ではなくどうやら怒っていたらしい。


「ごめん……」


思わずうなだれ、怒られたと言うより引かれるようなことばかりする自分に嫌気が差してしまう。


「いや、別に謝ることでもないけど。俺こそ力任せにすんません、レディーに向かって」


何だか変な空気になる。

そんな空気を打破しようと試みたのか、酒井君が立ち上がって伸びをする。


「仲田はさー、美味しそうに嬉しそうに食べるから、誰の前でもそのまんまでいいんじゃねーの？」


「え、嘘、食べてるときが一番可愛いってこと？」

あたしも乗ってふざけてみる。立てた人差し指を、自分の頬に差し、痛すぎる３４歳の完成。