腹黒エリートが甘くてズルいんです
そのポーズからして、完全にふざけているあたしに、立ち上がっている酒井君が上から柔らかい声で言う。


「だなー、ぜんっぜん変わってねーなー、そういうとこ。幸せそうに食べるよなー、ほんとに」


……ちょっと。
ダメでしょ、そこは否定しないと。アラサー以降は頬を膨らますとかアヒルぐちとかそれ系のポーズは洒落にならないから止めろって言わないと。
美味しそうに食べるから、そのまんまでいいよじゃなくて、もっとこう、そのまんまじゃダメなんだから嫁にいき遅れているあたしにアドバイスくれないと。


あたしは、35歳までに幸せになりたいんだから。
今のままでいいよなんて、そんな薄っぺらい慰めが欲しいんじゃない。



ふと、さっきの酒井君との距離感を思い出し、胸が苦しくなる。

凄く近かった。
吐息がかかるくらい近かった。


駄目だ、あたし。ちょっと酔っているのかもしれない。
カワイイと言われるよりも嬉しいことを言われたような気になっている。
素の自分を認めてもらえたような気になっている。

落ち着いて。

妙にドキドキしていることを、酒井君に悟られてはいけない。
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