腹黒エリートが甘くてズルいんです
あたしの言葉を聞いて、由依が笑う。


「もー。高校の風紀委員か、っつーの。『ダメだダメだ、好きになっちゃダメ!』とか思えば思うほどに盛り上がるよね。適度な障害は媚薬だもん」


……由依にはあたしの知らない壮絶な不倫経験でもあるのか?


「……うーん、とりあえず、確かに酒井君は素敵だけど、嫌だなー泥沼裁判とかそういうの」


それ何のイメージ?! とか言いながら由依が楽しそうにテーブルを叩いて笑う。


あまり広くない店内は、あたし達の他にも何組かお客さんがいて、あまり大きい声で喋るのは憚られる感じ。
話す内容も内容なので、何となく声を潜めつつ、言う。


「由依の望むように事実だけを羅列するなら、中学生の頃好きだった人に偶然再会して、あたしが35歳までに幸せになれる手伝いをしてくれる、となったんだけど、二人で会ったら凄い楽しくて、でも特にいいアドバイスは無くて、別れ際に……キス、されて、なんなんだよ、それ、みたいな?」


自分で言いながら、たったそれだけのことなんだよね、と事実を再確認する。
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