腹黒エリートが甘くてズルいんです
ふと気がつけば、実際の時間も随分と遅くなっていた。

そろそろ帰ろうかという話になり、さっき泣いたことで心配をされるも、別に泥酔していたわけではないので、由依の申し出を断り、きちんと一人で家へと向かう宣言をする。


そりゃそうだよね。
ちょっと、動揺して泣いたりしちゃったけど、同年代がしっかり『お母さん』をしているっていうのに、色恋沙汰でこんなに振り回されているなんて、どうかしてる。


完全なる片想い。
実ることは許されないし、あり得ない。

そんな、なりふり構わない片想いができるほど、あたしは若くない。
穏やかに生活したい。例えば、既婚者の酒井くんと上手くいってしまい、仮に離婚したとしても、誰かに……つまり、その奥様に苦しみを負わせた、という重荷を抱えて生きていく自信がない。



今更、どうして酒井君が結婚しているんだろうなんて悩むだけ無駄。

あたしは、楽しかった時間やあのキスの意味を考えることを永遠に葬って、とにかく前に進むんだ。


ばいばーい、と手を振る由依に、元気に手を振り返す。


がんばろう。


あたしは、35歳で、幸せになる。
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