腹黒エリートが甘くてズルいんです
***


「莉緒っち、生きてる?」


急に名指しで声をかけられて、びくんと身体が上に跳ね上がる。
空調のしっかり効いているオフィス内なのに、変な汗が出たような気がした。


「……あ、出光先輩」


声音と独特の呼ばれ方からなんとなく想像はついたけれど、そこにいたのは先輩で。


「生きてますよ、なんでしょう?」


あまり歓迎していない空気を全面に押し出してみる。


「ちょーっと、お願いがあるんだけど」


あ。知ってます、このパターン。あたしが学習しないとでも思うのだろうか。


「お断りします」


「早っっ」


アイター、と、自らのおでこを勢いよく叩く真似をして目をつぶる。先輩はきっとこれが素なんだと思う。


そういえば、あの飲み会から1ヶ月以上経つのに、それに関して先輩と何も話していなかったことに気づく。

元々先輩と恋バナをするような間柄でもないし、第一先輩自身がきっとそんなに暇じゃない。

だから、あたしが先輩と受付嬢がどうなったのか知らないように、先輩もあたしが今どんな状態なのか知らないんだ。
いや、それでいいんだけど。
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