金魚の見る夢


「おす。」

ガラスごしに中途半端なブランドのバッグを眺めていた時、声をかけられた。

驚きはしない、知った声だ。

「おう。」

そのまま、ガラスに映った髭面に挨拶。

相澤のイカツイ顔がクシャリと崩れる。

「久しぶりだな。」

一年ぶりに見る彼の顔は日に焼けて、なんだかシワが目立つ様になった気がする。

白いシャツにカーキのワークパンツ姿でクセの有る髪がツンツン跳ねている。

「元気そうだね。」

私の声に、まあね、と頭を掻くから益々髪の毛がクシャクシャになる。

「ロケが多いからすっかり黒くなっちまった。」

なるほど、そりゃ概ね室内の以前とは違うわね。

「今はドラマ?バラエティー?」

「単発のサスペンス。」

ぶっきらぼうに答える声には、自信と喜びが上手に隠れていた。

映画カメラマンが志望の彼としては、希望により近いだろう。

「いつ放送?見るよ。」

「別に俺が出てる訳じゃ無いぞ」

「いいから。」

彼は、ボソリと初夏の日付を告げる。

私は、その日付を頭に記憶した。
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