大人にはなれない
俺の肩が強張ったのを察してか、福原先生が鋭い声で止めに入る。
けれど嫌がられることも『仲の良さ』ゆえだって信じてる馬鹿は、今度は中村と俺とを見比べて半笑いを浮かべながら言ってきた。
「紗綾ちゃんさ、たしか敷島と付き合ってるんだよな?」
中村は突然話を振られたことと、その内容に驚いて顔を強張らせる。
「紗綾ちゃん家、お金持ちじゃん?ちょっと敷島にお金貸してやってくれよ~。紗綾ちゃんも自分のカレシがもう3ヶ月も給食費滞納してる給食食い逃げ泥棒とかって嫌でしょ?頼むよ~」
「笠間先生!いい加減にしてください!!」
福原先生が笠間に掴みかかってくれたのを視界の端にとらえながらも、俺は2人の横を通り過ぎて指導室を出て行った。
さすが笠間。
相変わらずの最低ぶりだ。
去年までこのガッコの生徒だった由愛が、担任だったあいつの無神経な言葉に何度泣かされて帰ってきたことか。
泣き腫らした赤い目で、でもそれを隠すように必死に笑いながら帰ってくる由愛を見るたび、俺は想像の中で笠間を何度も何度も。何度だってブチのめした。
殺してやりたいって思ったことだってある。
けど今は、殺すよりいっそ自分が死にたい。中村の前で『食い逃げ泥棒』だって言われても、今の俺には反論する言葉はない。
突き刺すような中村からの視線。あの戸惑うような驚くような目を思い出すだけで、カアッと頭の中が煮えたぎり、全身が燃え上がる。いたたまれなさのあまり、体も心もバラバラにちぎれそうだ。
死ぬほど恥ずかしい。なのにどうして俺は死ねないんだろう。