大人にはなれない
俺と俺の家のこと
1)失恋に浸る間もなし
1)失恋に浸る間もなし
「ごめん。好きだけどもうムリ」
放課後、呼び出された校舎裏。カノジョの中村にきっぱりそう言われて、俺はショックを受けるよりも「やっぱり」と冷静に納得していた。
「自分から告っておいて悪いけど、あたしもう美樹くんとは付き合えない」
話を切り出される前から、や、だいぶ前から中村にフラれることは予想していた。それでも俺はどうすることも出来ずに、こうして今日決定打が叩き込まれるのを待つしかなかった。
「買い食いはダメでマックもファミレスも行かなくて、デートはいつも図書館とか……美樹くんの真面目っぽい、硬派っぽいとこ?そういうのも他の男子と違ってカッコいいって思ってたけど……正直もうついてけないよ」
気まずそうに俺から視線を逸らしながら、中村は「さよなら」と言い残して校舎に駆けていく。
中村はうちの学校でいちばんカワイイとか言われてて、すげぇデカい家に住んでるお嬢様だ。なんで俺なんかのことを好きになってくれたのか、告られたときも今も全然分からない。
けどフラれた理由だけははっきりと分かっていたから、ついその場で溜息をついていた。
「はあぁぁ………」
するとすぐそばからからかうような笑い声があがる。
「すごい溜息だな、美樹」
「あはは、やったね!ミキちゃんが学校一の美少女にフラれたぜ~!」
教頭が毎朝念入りに手入れしている花壇の影から、よく見慣れた顔がふたつ現れる。
「………おい。息吹(イブキ)、斗和(トワ)、おまえら覗き見してたのかよ」
小学校からの腐れ縁の、同じクラスのふたりを思いっきり睨みつけてやる。
目付きの悪い俺はこうやってひと睨みすれば周りからかなりビビられるけれど、このふたりは怖がるどころか悪びれる様子もなく、息吹は澄ました顔で、斗和のバカはニヤニヤした顔で近寄ってくる。