大人にはなれない


* * * *


「ミキちゃんお・ま・た・せ~」


斗和の部屋で待っていると、語尾にハートマークが付きそうなキモい裏声を出しながら、斗和が1階から戻って来た。

「斗和くん特製のおにぎり作ってきてやったぜー、たくあん昆布におかかに梅干し、それに今日は特別に昨日のおかずの残りもの、豪華から揚げ入り!とにかくなんでもかんでもぶちこんだ『残飯処理おにぎり』ですよー。たーんとめしあがれっ」

部屋に入ってくるなり、斗和が皿に乗ったギャグみたいな大きさのおにぎりを俺に差し出してくる。斗和はすでにもう片方の手に持った同じく特大サイズのおにぎりに齧り付いていた。

「うっま!!やべこれうっま。ミキも食べてみ?塩加減まじドンピシャ。どーしよ俺、将来カリスマ美容師とバスケのスタープレイヤーと凄腕イケメンシェフ、世界初の三足のワラジいけんじゃね?今度の進路希望、第一から第三希望まで、これで決まりじゃね?まじウマいからミキちゃんも食えって。遠慮すんなよ、ほら」


斗和が無理やり俺の顔面におにぎりを押し付けてくる。


「ちょ、斗和っ。わかったからっ」
「っはぁ。やっぱバスケ後はコレに限るわー。俺米派なんだよねぇ、やっぱ日本人ですから。パンもウマいけどやっぱ米、おやつもだいすきだけどやっぱ米。夕飯前でもとりあえず米。あー落ち着くわー」


言いながら斗和はあっというまに半分近くも食べてしまう。斗和の勢いに引き摺られて、俺も特大おにぎりにかぶりついた。すぐに具のたくあんが出てくる。

『なんでもぶちこんだ』というけど、具は全部まぜこぜに突っ込まれてるわけじゃなく、たくあんはたくあん、昆布は昆布、すべての具がきちんとエリア分けされて埋まっていて芸が細かい。


調理実習のときは「包丁こえーし。俺料理なんてやったことなくて~」なんて甘えて、同じ班の女子に調理をすべてお願いする斗和だけど、生まれたときから両親共働きの環境で育っているから、本当は料理だとか掃除洗濯だとか、身の回りのことはひととおりこなせる能力が身についている。

ガッコじゃそんなことを億尾にも出さずに、いつも女子たちに甘えた声で「お願い、お願い」なんて言うのだから、こいつはバスケだけじゃなく女にモテる天性の才能もあるんだと思う。


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