大人にはなれない

「あーちょーウマかった!俺やっぱ天才!!グレイト!!」

だいたい同じタイミングで食い終わると、斗和がごちそうさまを言って手を合わせた。

「………すげえうまかった。ありがとな」

痛いくらいに飢えを感じていた胃袋が満たされて、しかもほんとに斗和の特大おにぎりはうまくて、自然と口元が笑うときみたいに緩んでいた。

俺も手を合わせてごちそうさまをすると、なぜか俺を見て斗和が奇妙な表情になった。

「……なんだよ……?」

斗和は面映そうに視線を逸らす。


「や。……ミキに素直に感謝されると、なんか調子狂うっていうか……」
「なんだよそれ。普段の俺って、そんなに傲慢なヤツなのかよ」
「じゃなくて。……俺女だったら今ので落ちてるわ。こえーよ、お前の無自覚」
「はあ?」


言ってる意味がさっぱり分からない。斗和は疑問符を浮かべた俺に、ちょっと苛立ったように言ってきた。

「だーかーら。ミキに笑顔で『ありがとう』とか言われんの、照れんなってことだよ。……つぅか言わせんなよ、うりゃッ!隙ありッ!」


斗和がさっきのおふざけの喧嘩の続きと言わんばかりに、急に掴みかかってこようとする。

その手を難なく振り払い、ガラ開きだった斗和のもう片方の手を素早く掴んで逆手に捻り、そのまま斗和の体ごと畳の上に沈める。ここまでの所要時間、3秒くらいか。まさに秒殺。


「ギブギブギブギブッ!!いてぇよ、ミキッ、まじ痛い、うぁごめんなさい、ボクの負けです、認めますっ!もうしませんっゆるしてくださいっもうやめてぇ~」


もちろん斗和が何より大事にしている手に怪我をさせるつもりなんてないから、かなり手加減してる。斗和も本気で痛いわけじゃなく、冗談だってことを過剰な演技で俺に伝えている。

目が合うと示し合わせたように笑い合って、それからふたりして床に座りなおした。


「ミキ、麦茶おかわりいる?」
「や、もう大丈夫」


いつも本題に入る前には、その合図のようにどうでもいいやり取りをする。それからお互いに空気を読み合うようなちょっと沈黙した後、切り出される。


「で。美樹、今日どうしたん?」


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