大人にはなれない
ときどき俺は、いつか自分がふたりの視界に入らないくらい、小さな人間になってしまうんじゃないかって思うことがある。
ふたりよりもはるかに子供で未熟でなさけなくて。
このまま永遠に息吹や斗和がいる場所にたどりつけないまま、ふたりに置いていかれて忘れ去れるんじゃないかって。
「慰められたいっつうか。………正直、叱られてぇかも」
思わず本音が漏れると、斗和がマヌケな顔して俺を見つめてくる。
「はあ?」
「なんか俺、ヤバい」
「ヤバいって?」
さっき中村にしたことが、斗和と会話しながらもずっと脳裏にあった。
「目付きが?それならいつものことっしょ」
「---------自分がクズすぎてヤバい」
懺悔するように呟いた途端。斗和がバカっぽく大口をあけていきなり笑い出した。
「あははははははっはっ、ミキがクズだってっ?!」
我慢できないとでも言うように、斗和はその場に崩れて床に転げまわった。それなりに深刻っていうか、マジな話のつもりだったのに、それをぶちこわすように斗和は腹を抱えて笑い続ける。
「ひぃー、腹いてぇー、………ぷっ………ああもうミキちゃん、おまえ食った直後に腹筋攻撃すんな、ばか。いてーし!!」
そういって目尻に涙まで浮かべやがる。こいつ一発殴ってもいいかなと思っていると、俺の不穏な空気を察してか斗和がようやく笑いを引っ込めた。
「ミキちゃんさぁ、お前の不意打ちつぅか無自覚、マジこえー。笑いすぎて死ぬかと思ったわ!」
「……勝手に笑ったのてめぇで、こっちは笑わせる気なんてねぇよ」
「だろねー。つかさ、何ドツボにハマってんのよ?弱気発言とかおまえのキャラじゃないっしょ」
斗和はいかにもくだらないことを聞いたとばかりにひらひら手を振る。
「ってかさ、おまえがクズとかありえねーし!でもどうしてもミキみたいな奴をクズって呼ばなきゃならないなら、俺も息吹も同類、クズだろ。俺らがクズって基準なら、世の中みんな、どいつもこいつもクズ!クズだらけ!クズしかいない!!ひとりじゃない、みんなクズ仲間!なんも心配ないじゃーん!」
ほがらかにそういって斗和がにやりと笑う。
自称『ウルトラポジティブ』。ときどき、そんなこいつのことを本気で尊敬しそうになる。