大人にはなれない

「おまえひそかに女の子にモテててるくせに、ぜんぜんガツガツしてないとこほんとムカつくわ。それだとモテ努力してる俺がサルみてぇっつか、無駄に敗北感だわッ。あー気分わりぃー」

言いながら斗和がいきなり断りもなく急に椅子をリクライニングしてきて、頭にシャワーを当ててきた。

「けけけ、ざまーみろ。冷てぇーか」

シャワーから出ているのはお湯でなく、水だ。けど水で頭を洗うことくらい慣れきってるので、斗和が期待してるほどの反応を返してやれない。

しばらく水をかけていても反応のない俺を見て、斗和は諦めたようにお湯に切り替えた。

水の冷たさに慣れていても、やっぱお湯で洗われるのは気持ちがいい。しかも斗和は洗い方は雑だけど、手がデカくて、しかもバスケをやってる所為なんだろう、頭皮に当たる指の力はひとつひとつがしっかりしていてすごく気持ちいい。

シャンプー台で斗和にされるがままになっていると、いつも体から力が抜けてとろけそうになる。


「………うわ。なにこの気持ちよさそーな顔。ミキのこのエロい表情動画にしたら女子に高く売れそー」
「は?おまえさっきからなんだよ。………だいたいおまえ、すげぇモテてんだろ。仮に俺が誰かにモテるんだとしても、おまえその比じゃねぇし」
「あーあー、おモテになる方はヨユーですねぇ」

斗和は恨みがましい目をしてしつこく絡んでくる。

単純でさっぱりしたやつだけど、『モテ』の話になると斗和はすこしめんどくせぇヤツになる。……いや、すこしでもないかもしれない。かなり、だ。


「お・れ・は!!モテて当然なんだよ。だって俺ミキちゃんと違ってモテる努力しまくってんだからなッ。モテそうな髪型して、かわいい子にもブスにも女子にはみんなやさしくして、バスケだってモテそうだからはじめたし、理容室っていったらモテなそうだから女子には家が美容院だって嘘ついてるし!」


いいながら斗和の大きな手が俺の頭をガシガシ洗っていく。


「俺はおまえみたいな特にアピールもしてねぇくせに天然で女の子釣れちゃう感じの男が憎いんだよー。所詮作りもののイケメンは天然のイケメンにはかなわねぇって、分かってるからむかつくに決まってんだろ!」

きれいに泡を流して洗い終えると、斗和は俺以上に清々しそうな顔になった。

「言いたいこと言ってすっきりした~。じゃ、とっとと乾かして美樹くん坊主にしちゃいますか」

斗和はそう言ったけど、出来上がったのは顔がはっきりと見える、すっきりとしたショートスタイル。サイドはかなり短めに切り込まれたシャープな髪型で、長めのトップとバランスがいい。俺の硬い髪質とも合っている。

『とーちゃんかーちゃんからカットのテクは盗んである』と本人が言ってたとおり、バスケだけじゃなく美容師としても斗和の手には非凡な才能が秘められているんじゃないかと思わされる。


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