大人にはなれない
「最近美樹、中村さんとギクシャクしてたから気になってたんだ」
そう言ったのは息吹。
くっきりした大きな二重に、笑顔の似合う大きめの口、日本人離れしたきれいな鼻筋。パーツのひとつひとつが派手で、何て言うか豪華な顔立ちのヤツだ。この息吹は学校一のイケメンとか言われてて、同じ男の俺の目から見てもフツウにカッコいい。仲のいいヤツにだけはときどきこっそり毒舌だけど、表の顔は穏やかでやさしい。
おまけに聞き惚れるくらいの美声で、声までイケメンとか言われてる。そりゃ歩いてるだけで女子がきゃーきゃー騒ぐわけだわって思う。
「そーそー、特にミキちゃん、今日はずっと暗い顔してたからねぇ。もしやフラれるんじゃね?って思って息吹とずっと尾行してたんだよ!」
そう言ってからかってくるのは斗和。
息吹ほどじゃないし、地毛の茶髪が似合いすぎててチャラく見えるけど、まあ斗和もそこそこいいレベルのイケメンなんだろう。いつもくだらねぇことで騒ぎまくってエロい話が大好きな馬鹿だけど、運動センスが抜群なうえに話好きで親しみ易い明るいキャラの所為か、告ってくる女子の数は実は息吹より多かったりする。
「で?何笑ってんだよおまえら。人の不幸が楽しいか?」
俺がすごむと、斗和と息吹が顔を見合わせて意味ありげな顔をする。
「やー、ミキちゃんザマアって思って!」
「はあ?」
「だってさ、モテ男な俺らを差し置いて、ミキちゃんなんかが先にカノジョ作るなんてムカついてたんだよね~。しかも男子人気ナンバーワンの中村さんが俺らスルーしてミキに行くなんて、めっちゃ屈辱!俺たちのプライドズタズタだったんだもーん。ね、息吹?」
「まあ今プライドズタズタなのは俺たちじゃなくて、フラれたばかりの美樹みたいだけど?」
息吹がきれいな顔に、にやりと教室では見せない意地悪な笑みを浮かべる。
「ひどい顔だな、美樹。おまえも人並みに女の子にフラれるとショックを受けるんだな」
「……べつに俺は」
「だから言ったんだよ。おまえと中村さんはどうせすぐ別れるって。他でもない俺からの忠告なんだから、聞いておくべきだったろう?」