大人にはなれない
冗談っぽいその言葉に、斗和の好奇心だとか心配だとかお節介だとかが、いろんなものを感じる。
----------だから送るなんて言ったのか。
自転車で2ケツなら、誰かに話を聞かれる心配がない。それに何より、斗和も俺も顔を見合わせることなく話すことが出来る。進路の話をするにはおあつらえ向きだ。
「ミキさ、フツーに賢いじゃん?おまえ俺より頭いいのに中卒とかすげ勿体なくね?」
「賢くなんかねぇよ。おまえが馬鹿すぎんだろ。俺の頭なんて普通だ」
「うわ嫌味。いつも10番内、悪くても20番代入ってるくせに。どう考えても頭いいし」
「ウチの中学のレベルじゃ、学校内の順位なんて頭の良さの基準になんねぇよ」
ウチの学校じゃほとんど先生が教科書からそのまんまの出題しかしないし、発展・応用問題なんてどの教科もあまり出してこない。まっとうに教科書さらってるヤツからすれば楽勝レベルだ。
現に息吹なんて、毎回ほぼオール満点。いつもテスト開始30分もしないうちに、退屈そうに裏面にらくがきをはじめる。
「けどミキって、いつも授業聞いてるだけでテスト勉強とかしないんだろ?それでいつも上位にいられるとかすげーじゃん」
家だとひまりがまとわりついてきて、なかなか勉強なんてさせてくれない。だから授業中、その場で内容を頭に叩き込んでしまった方が効率がいい。それだけの話だ。
「勉強時間とか、わざわざ授業の他に時間作るのめんどくせえんだよ。どうせ授業中、暇で他にやることねぇし」
だから英単語とか暗記物も、出来るだけ授業の間に覚えるようにしてた。負けず嫌いな性格の所為か、一種のゲームみたいなものだと思えば、タイム制限のある中でやる暗記や勉強もわりとたのしめる。
「わー、ほんっと嫌味。また女子が聞いたらきゃーきゃー騒ぐようなこと言いやがって。おまえって実はちゃんと塾とか行ったら、息吹より頭いいんじゃね?」
「バーカ。格が違ぇよ。あっちは全国模試でいつもトップクラスの化け物なんだから」
「あはは、化け物か。たしかに息吹、なんでこんな田舎にいるのか不思議なくらいの偏差値おばけだよなー」
本題には入らず、当たり障りのないことを話しているうちに、俺の住んでる『つつじヶ丘団地』が見えてきた。桜の並木道になってる団地の入り口に、自転車が差しかかろうとしていたときだった。
「ストォォォプッ!!」
いきなり斗和が叫んで俺の肩を掴む指にぐっと力を込める。慌ててブレーキを握り締めた。