大人にはなれない
俺と中村が性格的にもその他にしても全然合わないことくらい、息吹に指摘されるまでもなく付き合う前から分かってた。息吹みたいに特別な力がなくたって、すぐに別れることになるって察していた。
だから本当は中村から『敷島くん、付き合ってください』って言われたとき、すぐその場で断るつもりだった。
けど。
俺みたいなヤツは、もしかしたら女子から告られることも、付き合うことも、人生でこれが最初で最後になるかもしれない。そう思ったら、『いいけど』なんて答えてしまっていた。
俺と中村とは住む世界が違うなんて分かりきってたくせにOKしたんだから、フラれたのなんか自業自得だ。もともとすぐダメになるって覚悟して付き合いはじめたんだから、ボロボロになんてなりようもない。……ないはずだ。
なのにさっきから、告ってきて、俺がOKしたときの中村の顔が頭を離れない。すごく驚いたように目を見開いて。それから泣きそうな顔で何度も俺に『ありがとう』を繰り返していた。今こんなに思い出したって何にもならないのに。
……これが未練ってやつなのかもしれない。
「………うっせぇよ息吹。つか斗和、おまえいい加減俺の名前をちゃん付けで呼ぶんじゃねぇよ」
これ以上ふたりに中村のことを言われるのがうっとうしくて話題を逸らすと、息吹も斗和もそれ以上絡んでくることはなかった。
俺が触れられたくないことにもズカズカ首を突っ込んで、あれこれ言いたい放題なのが息吹と斗和だけど、こいつらは空気を読むのがうまくて、話の引き際をよく心得ていた。だからこそ俺は今でも昔と変わらずコイツらとツルんでいられた。
「えー、だってミキちゃんはミキちゃんじゃーん」
斗和がいっそうふざけた態度でへらへら笑いながら言ってくる。
「だからやめろって言ってんのが聞こえねぇのかよ、てめぇ」
「うわっこわッ。いい名前じゃん、美樹って。目付きのヤバい釣り目のコワ系な顔には全然合ってないけど。名前だけでもかわいさ補充でいいんじゃね?ミキちゃん?」
「……ざけんな、連呼すんな、このッ」
「うおっ、とと。いきなり殴ろーとすんなよ!そっちがその気なら応戦しちゃうぜ?うりゃっ」
俺のパンチをかわした斗和がアホっぽいファイティングポーズを取って俺に掴みかかってくる。