大人にはなれない

「おまえはただ産んだだけでひまりを育ててるのは母さんなのに、なんでおまえが勝手にひまりの児童手当て受け取って使い込んでるんだよ、それ不正受給って犯罪だろ。母さんに通帳渡してさっさと出てけッ」
「あーあーあっ!!あんた金、金、金ってマジうるせぇし、そんなに欲しいならくれてやるよ。ほらッ」


優姫香は派手なバックから分厚い封筒を取り出す。俺に向かって無造作に投げつけられた封筒が開いて、中身が何枚か飛び出る。封筒の中身は10や20ってレベルじゃない。万札が少なくとも100万円分くらいは詰まっていた。


「こんな大金どうしたんだよ…………まさかおまえまた風俗で稼いだのか?」
「は、バッカじゃね?キャバクラは風俗じゃないって言ってるでしょ、ただ酒飲ませて接客するだけ。風俗と違って体なんて売ってねぇし。水商売中んでも健全な方だって、何回言ったらわかんだよ、ガキが。それにだいたいあたしがキャバ嬢やってたの何年前の話だっての」
「健全とかよく言うな、だったらなんでそのキャバクラで働いていたはずのおまえが、客との間に子供を作っ………」


言いかけた言葉を、慌てて飲み込む。

落ち着け、落ち着け。いくら今眠ってるからといって、ひまりがいる場で俺はなんてことを言いそうになっているんだ。たぶん今の俺は俺が思う以上に冷静じゃない。優姫香に思った以上に感情を揺らされてしまっている。

息を吐いて、いつもみたいに腹に落とし込めばいい。今までだってそうやってきた。俺はどうにか自分を落ち着かせようとしたのに、優姫香は煙草をくわえたまま言ってきた。


「マジうぜぇー。あんたってほんと、じいちゃんそっくり。……心配しなくたってそのお金はヤバいのじゃなくてまっとうな金だよ。親孝行、じゃなくてばあちゃん孝行ってヤツ?だから好きに使いなよ」
「でもお姉ちゃん。ほんとうにこんな大金いったいどうしたの……?」

由愛が恐る恐る聞くと、優姫香は冷めた顔してとんでもないことを口にした。


「ひまりをさ、引き取ってもらうことにしたんだよ」


由愛も俺も、すぐには反応出来なかった。母さんだけは、どこか疲れた顔で眠っているひまりの頭を撫で続けている。


「引き取ってもらうって、お姉ちゃんどういうこと?」
「だからさ、あんたもまだ高校生になったばっかだし、美樹なんて中坊だし。この家で未成年のガキ三人はキツいっしょ?ばあちゃんも育てるどころかそろそろ介護される側になる年齢だし。だから他所の家にひまりを養子に貰ってもらうことにしたの。丁度よくない?謝礼金っての?前金だけでこんな貰えちゃったし」


こいつは今、なんて言った?


世間話でもするような顔をしている優姫香に、怒りを覚えるのを通り越してゾッとした。仮にもこいつはひよりの母親だっていうのに、なんでこんなうれしそうな顔で万札眺めてるんだ……?

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