大人にはなれない

「……なんだよそれ……俺がなんも感じてないと思ってんのかよ……本気で平気だと思ってるのかよ………?」


ダメだ。これ以上言ったら家族が崩壊してしまう。

母さんだって由愛だって、たくさんたくさん我慢してる。愚痴らずにいてくれてるのに。これ以上言ってしまえば、みんな傷ついてもう家族の心はバラバラだ。

わかっているのに激情がとまらない。


「………俺だってな、ほんとは息吹や斗和と一緒に高校生になりたかったよ……なんで『勉強なんて面倒くせぇ』って言ってる俺より馬鹿なやつが当たり前に高校も大学も行けて、俺だけが行けないのか、そんなの全然納得できてねぇよ……そんなに勉強するのが嫌なら俺と代わってくれって、何度思ったか分かるか……?

 ………修学旅行だって行きたかった。新幹線乗って、馬鹿みたいなこと話して、清水寺みて、土産に八つ橋買って……みんな京都なんてベタすぎてつまんねぇとか言ってたけど、一生に1回しか行けないんだ、俺だってホントはすげぇ行きたかった。

 ……バスケも……バスケだって、本当は絶対辞めたくなんてなかった。なんで斗和のアシストしてるのが俺じゃないんだって、この3年で何度……何度思ったと思ってんだよ………ッ。センス任せに走っていくあいつを支えてやれるのは俺しかいるわけねぇってのに、人がどんな思いでコートから出てったと思ってんだッ。

 ほんとは全部そんな簡単に諦められるわけないだろ!?嫌だよ惨めだよ悔しいに決まってんだろっ、だから家族のためだって思い込むようにしてきたんだよッ。思わなきゃ、そう思い込まなきゃやってらんねぇだけだッ!!」


後で死ぬほど後悔する。なのに俺の口は止まってくれない。


「何がいい子だ、そんな言葉で勝手に押し付けんなッ。俺だってな、ただの普通の15なんだよッ、ほんとになんでもかんでも大人しく諦めて、自分犠牲に出来る人間がいるとでも思うのか?!……俺はそうしなきゃならなかっただけで、ほんとに『いい子』なわけないだろッ!!」


消すことが出来ずに腹の中でずっとくすぶり続けた種火が、烈火になって口から吐き出されていく。頭が痺れたようにぼぅっとしていて、その向こうで母さんが泣いていた。由愛も。目を覚ましてしまったひまりも。優姫香も。そして俺も。みんな泣いていた。


「………………優姫香がまだ帰らないってなら、俺が表出てる」


俺の言葉の所為で凍り付いてしまった家族を置いて、家を出て行く。団地の奥にある、不便な場所にある所為で人が寄り付かないちいさな公園に付くと、塗装が剥げてボロボロになったベンチに座った。


今は誰にも会いたくないし、家にもいたくなかった。


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