大人にはなれない
8) 転機の土曜日
8) 転機の土曜日
一週間のうちで一番好きなのは火曜日。授業に数学と英語、それに体育と技術があるから。一番憂鬱になるのは金曜日。初っ端から苦手な音楽で、給食の後には眠くなる道徳まであるから。
一番大変なのは何曜日だと聞かれたら、迷わず土曜日だと答える。今日はその土曜日だ。
「みっくん、みっくん!おままごとしよぉっ」
ふりかけと白飯で控えめな朝食を済ませた後、洗った牛乳パックやら3連プリンのカップやらをちゃぶ台に並べたひまりが俺に引っ付いてきた。
「みっくん、あかちゃんのやくね!」
「あかちゃん……?」
「うん!ひまり、ママだから!」
「…………お父さんかお兄さんの役じゃダメなのか?」
俺の申し出に、ひまりには無情にも即答で「だめ!」と言う。
「みっくんはほんとのおにいちゃんなんだから、おにいちゃんのやくやるのはへん!」
「じゃあお父さん役でいいよ」
「やだっ、だめなの!!パパのやくはぜったいとわくん!だからみっくんはあかちゃん!!」
前に斗和が家に遊びに来たときも、ひまりはおままごとをすることをせがんできた。でも俺と違って斗和のヤツは「俺妹いないからこういうことすんの超新鮮!」とか言ってノリノリで遊んで、「およめさん役」のひまりをメロメロにしていた。
たとえ3歳児であったとしても女にすげぇやさしく出来るのは、たぶん斗和の美点なんだろう。……でもだからといって斗和みたいなノリを要求されるのはツラい。
「はいあかちゃん、ごはんしますよぉ」
そういってひまりは、俺が本物の赤ん坊だったら虐待でしかない勢いで空っぽの牛乳パックを口元に突っ込んできた。
「おいしいですかー、いっぱいのんでねー!」
ひまりだってまだ赤ん坊に毛が生えた程度のちびのくせに、そのひまりに赤ん坊扱いされるのはたとえごっこ遊びでも耐えがたい。正直おままごとなんて何が楽しいのか俺にはさっぱり分からない。
けどちょっとは付き合ってやらないと、ひまりが手に負えなくなるくらいぐずりだすことは分かっていたから、大人しくされるがままになるしかなかった。