大人にはなれない




『原則5分前集合』

待ち合わせってそんなもんだと思ってたけど、俺が駅に着いてから20分、指定された時間からはもう10分過ぎていた。

改札前に立っていると、今日は天気のいい土曜日ってこともあって、これから出掛ける家族連れだとか高校生くらいのグループだとか、いろんな人たちが行き交う。けどいつまでたってもその中に中村の姿は見えてこない。

俺に断る権利なんてないから絶対に来いと言って呼びつけたのは中村だけど、そもそも今日は中村が来るとか来ないとかの話じゃなかったのかもしれない。そんな疑問を抱き始めたときだった。階段の下からコツッコツッと足音が響いてきた。


「遅れてごめん!」


そう言いながら駅の階段を駆け上がってきたのは中村だった。

遅れた原因はそれかと指摘したくなるくらい不安定そうな、踵の部分が細くて高い歩きづらそうなサンダルなんて履いている。あぶなっかしいと思っているそばから「きゃあっ」と悲鳴を上げてすっ転びそうになるから、思わず片手を差し出していた。


「あっ、ありがとう、美樹くん………」
「大丈夫か?」

会うまでは気まずくなるんじゃないかと思っていたけど、とっさのことだったのでごく自然に口を利いていた。

「足、挫かなかったか?」
「…………うん」

俺の右手に掴まった中村は、よっぽど急いで来た所為なのか顔が赤くなっている。

「気を付けろよ」

そう言いながら握り締められていた手を離すと、なぜか中村はじっと俺の顔を見つめてくる。中村とすげえ至近距離にいることに気付いた途端、反射的に一歩離れていた。


「それで。おまえ、何」

なぜか自分でもびっくりするくらい動揺して、ぶっきらぼうな言い方になっていた。そんなことに気付かないのか、中村は折角俺が空けた距離を詰めてくる。

「何って?」
「……わざわざ人のこと休みに呼び出して、何の用なんだ?」


当たり前の疑問をぶつけただけなのに、なぜか中村はあからさまにむっとした顔になる。


ここでお調子者の斗和なら、まずは「おはよう」の挨拶の後にすかさず私服姿でも褒めたりするんだろう。

今日の中村は、白いスカートに白いシャツ、白いサンダル。肩から提げてるバッグだけは水色だけど、その他はやりすぎってくらい全身白だらけだ。こういうのが流行ってるのかどうなのかよくわからないし、おしゃれだかどうだかは正直俺にはよく分からない。

けれどまっさらなその色は中村の雰囲気にはよく似合ってる気がする。


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