大人にはなれない
「おまえ毎回丸付け手伝って大変そうだしな、有志なら無理に毎週行かなくてもいいんじゃねぇの」
「……うん、でね、あたしだけじゃなくて、美樹くんも休まないかな、とか思ってて……」
「俺も?なんで?」
聞き返す声が無意識に強くなったのか、中村がすこしだけ怯えたように眉を下げる。
「ほら、最近みらい塾来る子増えてきて、いつも席いっぱいだし……たまには休んでもいいんじゃないかなぁって」
「俺が毎回行ってるのは迷惑になってるってことか?長澤さんにでも言われた?」
「えっ!?違う、違うよ、長澤さんはそんなこと言ってない!」
「じゃあ別にいいだろ。俺は行くけどおまえは休むなら好きに休めよ」
話は終わりだとばかりに抜き終わった雑草をまとめていると、中村は食い下がってくる。
「待って!ねえ、いいじゃん。今週だけだから、ね?」
「おまえさ、なんで急にそんなこと言い出すんだ」
「それは……」
言葉を濁した後、中村は急に名案が思い付いたとばかりに声を上げた。
「あっ、じゃあ土曜日はウチで勉強しない?!」
「…………はぁ?」
「今週はお父さんいるから、わからないところ教えてもらえるし。あ、うちのお父さんもときどきみらい塾で教えに行くことがあるから、教え方は心配ないと思うんだ。美樹くんの好きな理数も得意だし。ね、どう?」
「………さっきからなんなんだ?」
「え?」
「言ってることがめちゃくちゃだろ。おまえ、今週都合悪いんじゃなかったのか」
「……………あ、それはその……」
「俺が塾行ったらなんかまずいことでもあんのか」
しどろもどろになった中村は、気まずそうに視線を逸らす。その顔は何かを隠そうとしている表情に見えて、問い詰める言葉がきつくなった。
「そうじゃねぇなら放っておけよ、別にこっちはおまえ来なくたって何も困らねぇし。だいたいもう付き合ってるわけでもないのに、おまえの家行くとかないだろ。何考えてんだおまえ」
「何それ。そんな言い方しなくてもいいでしょっ」
中村もさすがにむっとしたのか、強気な目で言い返してくる。
「だいたい付き合ってたときだって、あたしの家、いくら呼んだってきてくれたことなんてないくせに」
その言葉がちいさな棘になって胸に刺さってくる。