潮風の香りに、君を思い出せ。



翌朝、廊下にある長い洗面台で顔を洗って、まだぼんやりしていたところで「おはよう」と声をかけられた。

先輩の誰か、上のほうの年の人だ。合宿は普段就活中の四年生も何人も来てて、男の人は特に誰だか覚えられていなかった。髪の色も普通、眉も目も鼻も普通。この人、特徴ないな。いや、きれいな顔なんだ。なんだろう、海っぽい匂いのする人。



とりあえず笑顔で答えておけば間違いないと判断した。

「おはようございます」

「あれ? 俺のことわかってない?」

鋭い。ニコニコしとけばばれないことが多いのに。

「大地だよ、昨日喋ったよね、七海ちゃん」

「あ、セクハラの!」

昨夜のことを思い出して思わず言ったら、目を見開いてからお腹を抱えて笑われた。そんなに笑うところじゃないでしょう。

「なんだよ大地、また新入生にちょっかい出して」

やって来た他の先輩達にどつかれても、大地さんはまだ笑ってた。

笑うと目尻にシワができる。それが特徴か。でも笑ってる時しか使えないな、それじゃ。
< 10 / 155 >

この作品をシェア

pagetop