潮風の香りに、君を思い出せ。
翌朝、廊下にある長い洗面台で顔を洗って、まだぼんやりしていたところで「おはよう」と声をかけられた。
先輩の誰か、上のほうの年の人だ。合宿は普段就活中の四年生も何人も来てて、男の人は特に誰だか覚えられていなかった。髪の色も普通、眉も目も鼻も普通。この人、特徴ないな。いや、きれいな顔なんだ。なんだろう、海っぽい匂いのする人。
とりあえず笑顔で答えておけば間違いないと判断した。
「おはようございます」
「あれ? 俺のことわかってない?」
鋭い。ニコニコしとけばばれないことが多いのに。
「大地だよ、昨日喋ったよね、七海ちゃん」
「あ、セクハラの!」
昨夜のことを思い出して思わず言ったら、目を見開いてからお腹を抱えて笑われた。そんなに笑うところじゃないでしょう。
「なんだよ大地、また新入生にちょっかい出して」
やって来た他の先輩達にどつかれても、大地さんはまだ笑ってた。
笑うと目尻にシワができる。それが特徴か。でも笑ってる時しか使えないな、それじゃ。