潮風の香りに、君を思い出せ。

勇気をもらって


アロマ兼雑貨のお店に着くと、朝でももうお客さんが何人か入っていた。バイトらしい店員さんもいて、確かに平日だった昨日より賑わっている。


カウンター近くにいたあかりさんは、昨日と変わらずかっこいい。今日はあかりさんの肌に似合う黄色の柔らかそうなシャツにホワイトジーンズ。

「あかりさん、昨日ありがとうございました」

「思い出したんだって?  大地に聞いたよ、よかったね、すっきりした?」

港のことを言われてるのはわかったのに『大地に聞いたよ』に思わず反応する。それを見て大地さんが気まずそうに言う。

「あー、お前に余計なこと喋ったって言って、怒られた」

「昨日も思ったけど、いろんな意味で最悪だね、ほんと」

私に向けていたにこやかな笑顔を消して、あかりさんは辛辣に言い放つ。

「あの、ブレンドしたオイルを買おうかなって思って昨日忘れちゃって。あかりさんのおススメってありますか?」

この話題を変えたくて、慌ててあかりさんに聞いてみた。

「自分用? だったら少し話してもいい? カウンセリングしてから選ぶといいよ。時間ある?」

「好都合、だよね?」

大地さんはカウンターに手をついて、首を傾けて諦めたように聞く。まあ、そうですね。にっこりほほ笑んで見せた。



その時入口のガラスドアが開いた音がして、顔を向けて「いらっしゃいませ」と言ったあかりさんの動きが止まった。

大地さんと私も、なんだろうと同時に振り返る。

誰も何も言わなかったけど、わかった。

ナナさんだ。


なんとなく想像していたタイプと違った。あかりさんみたいな人じゃない。サイズや雰囲気が、どちらかと言えば私と近い。小柄で線の細い身体つき。大地さんを見つけて言葉を失って、ごまかすように泳いだ目。
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