潮風の香りに、君を思い出せ。


「よう、久しぶり」

最初に口を開いたのは大地さんだった。いつも通りの穏やかな優しい声だ。

「帰ってきてたんだ」

ナナさんが答えて、私をちらっと見ながら聞く。

「彼女?」

「ナナと話しつけたらそうなる予定」

「話って?」

ナナさんがちょっと身構えるように聞く。

「色々聞きたいことあるんだよ。一人?時間ある?」

「あるけど、いいの?」

また私を気にしながらナナさんが言うと、大地さんも私を見て気軽に聞く。

「ちょっと待っててくれる?」

「はい」

答えながらナナさんのことが気になって、それ以上何も言えなかった。

「そう。じゃあ、車にいるから。ごめんまた来るね、あかり」

それだけ言ってナナさんはすぐまたドアを押し開けて出て行く。私がいるのが嫌なんだろうと感じた。そうだよね、誰だよって思うよね。もしまだ大地さんのことを少しでも思ってるのなら、尚更。

「じゃ、あかり、ちょうどいいだろ、今言ってたカウンセリングするぐらいの時間で」

そういって手を上げて出て行こうとする大地さんの腕をつかんで、あかりさんがカウンターの裏に引っ張る。

「大地、ちょっと」

「なに?」

「私じゃなくて、七海ちゃん」

あかりさんは私も促して、スタッフ用の裏の部屋に連れて行った。

「表にいるから」

私たちだけ押し込むと、あかりさんがそう言ってドアをお店側から閉めてしまった。

大地さんは「なんだよ」とあかりさんに向けて言った後、困ったように私に顔を向けた。別に私に言いたいことなんてないんだろう。ナナと話すと言っていたら、ちょうど来たから話して来る。それだけなんだ、この人は。
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