潮風の香りに、君を思い出せ。
「恋バナしちゃって、カウンセリングじゃなくなっちゃった」と反省するあかりさんは、それからはセラピストの顔になった。私の怖がっていて勇気が出せない気持ちをもう少し掘り下げて聞いてくれて、今度はメモも取っている。
そして私用のオイルを選んで、好みを確認してくれる。
「これがネロリ。心を静めて恐怖をやわらげて幸福感を感じられるようにしてくれるって言われてる。こっちはクラリセージ。リラックスさせながら頭と心をすっきりさせてくれるの」
小瓶のふたを開けてそれぞれ嗅がせてくれる。甘くて苦さもある香りと、すっきりしたハーブの匂い。うん、幸せになれそうってわかる。
アーモンドオイルに何滴か垂らして、両腕をマッサージしてくれることになった。香りに包まれるだけでも気持ちいいけど、肌に浸透させると他の効果もあると説明してくれた。
「私がブレンドしたのは販売できないから、おうちで使う用にはこの2つも入ってる商品を後で渡すね」
「はい。ありがとうございます」
おばあちゃんちのことが終わったら、他でも勇気が必要になるだろうかと考える。『おうちで使う用』なんていつ使うかな?
そうか、彼に連絡するとか、サークルに行くとか、そういう時にも勇気があるといいと思いつく。びくびくしててやるべきことをやってないから結局どちらもこんなことになっちゃったのかもしれない。
「考えてみると、私、いつももっと勇気が必要なのかもしれないです」
準備をしているあかりさんにも伝えてみる。
「問題が起こるとそこから逃げちゃうんですよね、だいたいいつも。なんかもういいかなって思って。気合いが足りないというか、弱気というか」
大地さんに言われたみたいに、テニスでは強気出せるのになぁ。実生活に弱いタイプだ、何かと。