潮風の香りに、君を思い出せ。

一緒にごはんを食べて嬉しいのに、料理も美味しいのに、なんとなくまた黙りがちになった。

「なんか怒ってる?」

「怒ってなんかないです」

大地さんは、私が何に引っかかっているのか本当にわからないようだった。ちょっとがっかりしたような、うんざりしたような顔をしている。

あ、どうしよう。私調子に乗ってイライラをそのまま出した。

「七海ちゃん」

どうしていいかわからなくなって結局黙っている私に、大地さんはまだ声を掛けてくれる。

「俺ね、見掛け倒しとかよく言われてて本当にそうで、失言してもよくわかんないんだよ。なんにムカついたかちゃんと言ってくれると助かる」

「あの、すいません。私が勝手に気になっただけで」

「謝らなくていいから、教えてよ」

優しい態度で、でも一歩も引かずに聞かれる。

「フリっていう言葉がきついなって思って。私もわかんないフリだって言われたりするから。
あかりさんはどっちでもいいって信じてて、たまたまうまく行ってるのかもしれないし、そう思ってるフリなんかじゃないと思って」

「ああ、そういうこと。そういうつもりじゃなかったけど、考えなしだったな。ごめんね」

大地さんは気が済んだように言って、軽く謝った。

「店長が本当にこだわらない人でさぁ、フリっていうか影響受けてるんだよね、あいつ」



大地さん、私ね、びっくりしてる。こんな風に振舞っていいんだって、大地さんといると何度も思う。こんな風に軽く謝ったり、わかんないから教えてって言ったり、私にはできない。


バカだから期待しないでって予防線を張りつつ、本当に失敗したときはばれないように必死でごまかしたりする。
かっこ悪い自分をできるだけ隠しておきたい。



でもうまく伝えられないけど、かっこ悪くなることを気にしないのが一番かっこいいんだなって、大地さんを見てると思う。

それだって言えないけど。

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