潮風の香りに、君を思い出せ。
あかりさんもだけど大地さんもすごいなぁって思って顔を見てたら、また聞かれた。

「今度はなに? ほんと忙しいよなぁ、怒ったり笑ったり。なに考えてんの」

「昨日から私の話ばっかりで、大地さんのこと全然知らないなって」

昨日から思ってたことを言ってみる。

「俺のこと?」

「見た目がよくて苦労した話、聞きたいです。あかりさんも香世子さんも言ってたから知りたい」

「ああ、それか」

思い出すように、面倒くさいように、大地さんは空を仰いだ。

だいたい想像つくし言いたくないかなって思うけど、でも大地さんでも悩んでたことって聞いてみたい。今も苦労してるのかなってことも。

「中学の途中ぐらいから急に知らない女の子に告白されたりするようになって、でもなんか思ったのと違うとか言って振られたりがっかりされたりしょっちゅうしてたんだよ。相手はたぶん当てが外れた程度の軽い気持ちなんだろうけど、俺にとっては周りの期待に応えられてないというか、思春期だったし変に気にして頑張ってた時期があって」

そこで一度話を切って、恥ずかしそうにする。

「ごめん。七海ちゃんの話に比べてくだらなすぎるな」

「そんなことないです」

中学生の時の大地さんか、想像できない。

「まあとにかく学校では、期待されるキャラを演じてたんだよ、できる範囲で。なんだかんだ高校までかな。でもできるわけないっていうか、すぐボロは出るし? ますます評価を下げたりしててほんとダメでさ」

かっこいい人にもそんな苦労があるんだなぁと、不思議な気がする。しかも恥ずかしい思い出みたいで、どんなだったのか見てみたい。

ああ、きっとそういう時に大地さんをわかってくれたのが、ナナさん。思い当たってどくんと胸が嫌な音を立てる。

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