潮風の香りに、君を思い出せ。
だったら、私は私だから諦めてって思える?
うーん、どうだろう。大地さんみたいにこんなに楽しそうには言えないな。私は嫌だと思ってる、人を覚えられない自分を。それが脳の問題だとしてもどうにもならないことだとしても、それでも嫌だなと思ってる。
「でも怒らせたりするのは悪いと思ってるし、できるだけなんとかしたいとは思ってるよ?」
考えて下を向いていた私に、大地さんが取りなすように顔を近づけて言う。
「その分笑わせてもらってるから、私は大丈夫です」
半分本気で、からかってみる。
「あかりはかっこよくて優しくてなのに、俺はそんなってひどいよなぁ」
「妬いてますか?」
またぼやき始めた大地さんを笑いながら、目を覗き込んで聞いてみる。大地さんは少し嫌そうに目を細めて、私のおでこを軽くこづいて押し返した。
「あんまりかわいいこと言うなって」
照れたように、でもすごく優しい目で笑った。
予想外の反応に、顔が熱くなっていくのがわかった。もっと余裕で冗談ぽく切り返されると思ったのに。
がっかりされるとか、嘘でしょ。一度がっかりされた後にまたかっこいいと思われてるんじゃないの。
自分で気づいてないんでしょう、そういうの。