潮風の香りに、君を思い出せ。
大地さんがコートに入っていったあと、アサミさんが私のそばに立ち、小声でバカにしたように言った。

「ナナ、大地さんだからって露骨にやりすぎじゃない? メガネかけたらわかんないとか、ありえないよ。覚えられないキャラとか、もう一年じゃないんだから全然可愛くないから」

予想外の角度からの攻撃に、一瞬息が止まるかと思った。

覚えていなかった人に嫌な顔をされたことは何度かあったけど、本人以外に怒られることもあるんだ。



私の物覚えの悪さは、最初に言ってはあっても周りの予想を遥かに越えるらしい。面白がってくれる人もいれば、呆れる人もいるし、たまに怒り出す人もいる。でも、アサミさんの嫌味は新しいタイプだった。

かわい子ぶってると思われてるわけ?

見当違いだなぁと結局特に弁解もせず、なんとなく苦手な人としてやり過ごすようになった。今思えばそのせいで後で揉めたのかもしれない。



大地さんに会うのはたぶんあの時以来。

それほど知らない人に一年ぶりに会ったら、しかも見慣れない格好だったらよくわからないのは普通だ、私には。

でも世の中的にはありえないんだってことも、わかってきてる。凡人がイケメンを忘れるなんてありえないことなんだ。
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