潮風の香りに、君を思い出せ。

渡辺さんのおうちは昔ながらの作りで、庭に面して間口の広い縁側があり、障子の向こうに和室があるようだった。

「縁側ですね。今時なかなかないですけど、いいですねこういうの」

門をくぐりながら大地さんが話しかけている。営業マンらしさが出ている。

「そう? 古いばっかりなんだけどね。じゃあ、よかったらそこに座ってみる? お茶入れるわね」

促されるままに縁側に座ってみる。ほんとだ、なかなかない感じ。庭には犬小屋が置いてあるけれど犬はいなそうだ。

見覚えがある気がするんだけど、どうだったかなぁ。テレビドラマにでも出てきそうな懐かしい感じの家だからそんな気がするだけかもしれない。

あの日はおばあちゃんを追いかけなかったことは思い出した。だから来てないんだよね?その後来た?うーん、思い出せない。

「来たことある?」

「うーん、わかりません」

「さっきのトンネルの時も、知ってるみたいだったよ」

え? わかったの? 隣を見上げる。

「七海ちゃんはごまかすのヘタなんだって。わかるよ」

そうか。こんな無頓着な人にばれちゃうってなんでなんだろう。

「やけに行きたくなさそうだったし、何かあるんだろうとは思ってたけど」

「でも、はっきり思い出せなくて。子どもの時のことだから」
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