潮風の香りに、君を思い出せ。

「七海ちゃん? 何か思い出した?」

大地さんの声で、思い出から現実に帰る。

「おばあちゃんにここで会って、無事だって知ってたなって」

頭の中があの時と同じように混乱したまま、誰か別の人みたいに冷静な声で答える。

「ねえもしかして、おばあちゃんと会ったのって、台風が来る時だった?」

おばさんも何か思い出したようで、そう聞いた。

「はい」

「十年くらい前だったらね、まだクロがいた頃でしょ。嬉しそうに帰ってきて、一緒に探してくれた子がいたのって言ってたのよ」

本当に? 私のこと、忘れてたけど。別の子じゃないの。

「そんなことめったになくってね、子泣きババアなんてあだ名つけられて嫌がられてたからね。喜んでたわ、そういえば。台風の前でちゃんと帰れてよかったっていうのもあって私もほっとしたの。
ありがとうね、十年も経ったのにわざわざ思い出して来てくれて」

「いえ」

「うちを訪ねてくれたのは私は覚えがないけど、おばあちゃんだけの時だった?」

「はい、たぶん」

「それじゃあ、ちゃんとしてたタイミングだったのかな。まだらボケでかなりちゃんとしてるときもあるし、わかんなくなるときもあってね。子供っていうのも私の兄のことでね、あの頃よく探して歩いていたの」

「子どもだったから、よくわかってなかったかもしれないですけど」

どうなんだろう。八才ぐらいだったのかな、私。ぼけてるって理解してた?それだったらおばあちゃんが私を覚えてなくても当然だ。そんなに傷つくようなことじゃないはずだ。
< 125 / 155 >

この作品をシェア

pagetop