潮風の香りに、君を思い出せ。
私の最寄駅について、一緒に降りる。がやがやとした夕方のプラットフォーム。海辺みたいに気持ちよくないけど、帰ってきたとほっとする。改札に上がる階段の下まで一緒に歩いた。
「じゃ、俺はこのまま反対のに乗って帰るよ」
ホームの反対側に、もうすぐ上り列車が入ってくる。でも本当に? そのために往復してくれたとは言え、もう?
「なに? 家に送って行こうか? 寂しくなった?」
大地さんはからかうように言う。私が断ると思ってる。さっきと違って寂しくなってるけど、言わない。一人で帰るって自分で言った。
「あのね、大地さん。私、いなくていいかもしれないけど、いてもいいのかなと思って。サークルもまた行ってもいいのかなって」
これだけは伝えておきたくて、まとまりきらない決意を述べる。行かなくちゃってわけでもないけど、 また行きたいと思い始めた。
「いなくてもいいし、いてもいい? なるほどね。あかりの影響?」
そう。そういう考え方を教えてくれたのはあかりさん。でもね、勇気をくれたのは大地さんの言葉だ。
「あかりさんもだけど、大地さんが言ってくれたから」
何をって問いかけるように向けられた目を見たら、言おうと思ってなかった言葉が口をついた。
「好きだって言ってくれたから」
違う!『いないほうがいいわけない』ってほうだってば! 自分に心の中で突っ込んでももう遅い。
驚いたように少し口を開けた大地さんに構わず、振り向いて階段を登り始めた。駅の真ん中で恥ずかしいこと言った。