潮風の香りに、君を思い出せ。
そんなに話したことがないはずだけど、そういう気にさせない人で助かる。そうだ、大地さんについて知ってることと言えば、私と似た名前の彼女がいることぐらいだ。
「ナナさん、お元気ですか?」
「ナナの話なんてした? 元気そうだよ。七海ちゃんの彼氏は?」
あまり聞かれたくないのか、すぐカウンターをくらった。話題作りは失敗だ。私こそ彼の話なんていつしたんだろう。
「元気ですよ、最近あまり会ってないですけど」
嘘ではない。
サークルでのゴタゴタのことが彼の耳にも入り、彼とはなんとなくうまくいかなくなった。結局私の言うことを信じてなくて、何度か不毛なケンカをした。
別れ話をはっきりしたわけじゃないけど、何度目かのケンカをしてから連絡がなくなり、別の女の子と手をつないで歩いていたという目撃情報を友達から聞いた。
だったら別に私がいなくてもいいんだろうな。そんな冷めた気持ちで受け止めた自分にむしろ驚いた。
学部が違う彼とは、キャンパスでもめったにもうすれ違うこともない。もしかしてそのうち顔も忘れちゃうのかもしれない。我ながら冗談にならなくて怖いと思う。
大地さんは高校からずっとナナさんと付き合ってるんだと、先輩達が言っていた。そういう人達には、こんな終わり方ありえないんだろうな。
いわゆる自然消滅。
自分で話題振っといて、嫌な話になっちゃった。バカだ。