潮風の香りに、君を思い出せ。
改札を出て駅前の道に出たとたん、待ちきれないように質問される。
「とりあえず、あのイケメンさんは誰。大学生じゃないでしょあれ。本当に先輩なの?っていうか男の人のうちに泊まったの?」
「大地さん。四つ年上の先輩」
それじゃ足りないというように、無言で続きを促される。
「かっこいいけど覚えられないOBで、アサミさんにわざとって言われた人」
「ああ、そんな話あったね。よく知ってる人のうちって言わなかった?」
「顔は覚えられなくてもよく知ってるの。それでね、実家が海のそばで、小湊にも車で連れてってもらったの。子泣きババアのおばあちゃんにお線香上げてきたの。あのひと、いい人だったよ。ぼけてたけど」
お姉ちゃんはそれにはあんまり興味がなさそうに横目で見てくる。でも負けずに続ける。
「あのね、お姉ちゃん。私、あのおばあちゃんのこといないって言われたの、ショックだったみたい。私と同じで覚えていられない人だったから、私もバカだからいないほうがいいって言われたみたいだった」
「何言ってんの?」
いかにもバカにしたようにお姉ちゃんが聞く。いつものことなので、この程度は気にもならない。
「私、いないほうがいいってこと、ないよね?」
さっきは泣きながら口にしたことだったのに、なぜだかもう、そんなはずないなという気分で聞けた。
「当たり前でしょ。そんなこと考えてたの? ハタチにもなって?」
「でも忘れてたんだよね、やっぱり」
「バカだねぇほんと。勉強はできるのにねぇ、なんでだろうね」
ため息をつかれてしまう。そうやって言うから、私が卑屈になるんだよ!
「あのね、大地さんもみんなにバカだバカだって言われてるの。でも、俺は俺だからこれでいいんだって。私もバカだけどこれでいいのかな」
「ふーん。で、つきあうの?」
質問したのに返ってこない。お姉ちゃんは自分の興味のあることしか聞いてないところがある。
「なんでそればっかり」
「は? 実家連れてって一晩泊めて、夕方になって送ってきて、それで何もないとかそんなことありえないでしょ」
隣を歩きながら、怒ったように私をにらむ。
「そうかな」
そういうつもりじゃなかったらしいし、責任感と保護者気分も混ざった好意みたいなの。連絡先もなぜかはぐらかされたの。話すと長いから言いにくいけど。