潮風の香りに、君を思い出せ。


「だからバカなんだって七海は。警戒心が足りない。覚えられないくせに人懐こいし」

まずい、お姉ちゃんのお説教が始まってしまった。慌てて訂正する。

「ちょっとあったけど。慎也くんと話をつけてからじゃないとダメだって」

「ああ。別れたのかと思ってた」

「うーん、まあそうだと私も思うんだけど」

あれだと大地さんには納得してもらえなそう。どうしよう。この状態なら連絡するなってことで教えてもらえなかったのかな。全然わからない。

とぼとぼと歩きながらため息をついたら、お姉ちゃんはそれ以上は突っ込んでこなかった。




駅から十分の我が家にもうすぐ着く。二人でこんな風に歩くのは珍しいけれど、並んで歩きながらって意外と話しやすい。聞いてみたいことを思いついた。

私の物覚えの悪さは当たり前になり過ぎて、意外とまじめに話題にしたことがない。

「人の顔が覚えられないのも、バカだからだと思う?」

「バカっていうのとは違うんじゃないの、それ自体は。お母さんだってなかなか覚えられないし」

お姉ちゃんの答えはもっと意外だった。私はそういう話をあまり聞いていないのに、お姉ちゃんはわかってるんだ。

「そう? お母さんて私には何も言わないけど」

「七海もわかんないからね。私には聞いてくるよ、あの人誰とか。あと、七海が覚えられるように手伝えっていつも言われてた」

「そうなの?」

「お母さんは出たがらないのに、七海はあんまり怖がらないで外に行っちゃうから皆で心配してたでしょ。トラブル起こしたりしてるのに、よくそんなふらふらできると思うよ、すごいよある意味。まぁそこがバカなんだけど」

そうかな。最近結構怖かったんだよ、外に出かけるの。知ってる人に会ったらどうしよう、わかんなかったらどうしようって思ってた。お母さんもそう思ってるの?

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