潮風の香りに、君を思い出せ。

朝、始発に間に合うように車で一番近くの特急停車駅まで送ってもらう。運転席には、お母さん。

「眠い。お母さん、こんなに早く起きてこれからどうしようかな」

ぼやいているけど気にしないことにする。

「だって、お母さんに話したり頼ったりしたほうがいいって言ったでしょ」

「朝はきつい。お母さん、七海と違って夜型だし」

あくびをしている。帰り一人だと眠くなっちゃうんじゃないかな。

「大丈夫? 帰りは一人で運転だけど」

「大丈夫に決まってるでしょ、毎日運転してるのはうちでお母さんだけでしょう。今日は遅くまで出かけてちゃダメだからね。全然うちにいないんだから。学校もサボってたって言うし。フラフラしてて変な人に声をかけられたら危ないでしょ、気をつけてよ」

「はーい」

余計なことを聞いたものだから、また何か怒っているようだ。バカになんてしてないのに。

お母さんは、やっぱり心配性だ。お姉ちゃんに相談する方がいいけど、でもお互い歩み寄りが必要だよね。





日曜朝の電車は、平日とは別の路線みたいに空いている。始発と言っても、日の出はとっくに終わった朝本番の時間。また見たいな、いつか。また一緒に。

外の景色を眺めながらいろいろ考えていた。今までのことも、これからのことも。



とりあえずはみんなに連絡して、テニスをしに行ってみよう。アサミさんに会ったら謝って、だけどほんとにわからないって伝えてみよう。一年生に挨拶して、覚えるまで何回も名前を聞くけどごめんねって言おう。

大地さんとテニスを見に行こう。朝、始発駅で一緒に電車に乗りたいって誘ってみよう。

また会いたいって言ってくれた。だから、会いに行く。私が一番会いたい場所に。



そろそろ着く頃に、初めてのメッセージを送った。

【七海です。忘れものをしたので取りに行きます】

すぐに返信が来た。起きてるんだ、大地さんも意外と早起きなのかな。

【忘れもの?なに?今どこ?】

【大地さんが買ってくれたもの。もうすぐ終点】

【うちの駅?もっと早く連絡くれよ!】

【海を散歩してますね】

【散歩に必要なもの?】

【正解!】

【すぐ持ってく。待ってて】

大地さんも思い出せなくて困るかと思ったのに、すぐにわかっちゃったらしい。
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